犬は元来、群れで暮らす社会性のある動物といわれています。 人と一緒に暮らすようになってから長い年月が経ちますが、これまで徐々に人間の生活にとけ込み、一緒に暮らすルールを学習してきました。では、子犬から成犬になるまでの間、どの段階で社会性を身につけているのでしょうか。犬を研究している専門家は、その時期を4段階にわけています。
産まれてから2週間くらいまでの時期。この頃の子犬は、まだ目が見えず耳もほとんど聞こえません。 行動範囲は母犬のお腹周辺に限られ、お乳を吸う以外はほとんど寝ています(1日16~20時間くらい)。 6日目くらいになると、腹ばいでハイハイをするようになり、少し行動範囲が広がりますが、まだ目が見えない子犬は嗅覚と触覚が頼りです。 この時期は、外界からの刺激に慣れ始める時期でもあり、人に触られたり、抱っこされたりすることで、だんだんストレスに強くなっていきます。新生子期はストレスを乗り越え、忍耐力を身につけることが可能な時期でもあります。
2週~3週目の時期。目が見え、自分で歩けるようになります。母犬にすべてを依存していた新生子期から自力で行動できる段階へ“移行”する時期。これまでは母犬の刺激がないと排泄・排尿ができませんでしたが、この時期になると自力でできるようになります。排泄場所を寝床と少し離した場所につくってあげれば、寝床を汚さないことを自然に覚えます。
移行期後から12~14週目くらいまでの時期。 この時期、社会との関わり方の多くを学びます。犬同士では、遊びの中でどれくらいの強さで咬むと痛いかなどを学習していきます。 母犬からは、相手にお腹を見せる“降参”のポーズなど、犬社会での決まりごとを学びます。 人間社会の中で生きていくために、この時期に大切なのは人の生活への“慣れ”です。台所で食器を洗う音や掃除機の音などの生活音に慣れることや、お年寄りから子供まで、さまざまな人を認識することが必要とされます。また、首輪などを無理なく装着できるよう、少しずつ慣らしていく時期でもあります。
好奇心が旺盛で警戒心がまだ薄いこの時期に、できるだけ自然な形で多くの状況を体験させることで、忍耐力があってストレスに強く、心がおおらかな犬に成長していきます。逆に、いやな記憶や恐怖と感じる体験はその後もずっと心に残り、臆病であったり、攻撃性の高い犬になったりする場合があるので注意が必要です。
13,4週あたりから性成熟する1歳前後までの時期。ペットショップなどから家族の一員として家庭に迎えられるのも、だいたい同じ時期です。子犬は社会化期に“慣れ”のために社会との接触を体験しますが、若年期はその体験を継続していきます。
ワクチン接種が完了するまでは他の犬との交流等には注意が必要ですが、抱っこして外に連れ出し、家の周辺の風景を見せたり、バイクやクルマの音に慣れさせたりすることを継続的に行います。これから幾度となく会うことになる近所の方にも、挨拶をするなどして恐怖心を取り除いていきましょう。 ワクチン接種が完了したら、公園への散歩など徐々に慣らしていきます。 大切なのは、新しい体験、経験が犬とって楽しいことになるように気を配りましょう。新しい体験をした時におやつを与えるなどして、“よい記憶”としてとどめておくのもよいでしょう。 最近ではマンションでペットを飼う家庭も多くなりましたが、高層マンションの上層階では、クルマの通る音や人が歩く音など、地上の環境音が聞こえません。この時期、人の話し声や歩く音などに慣れるよう、1日数回外に出る(地上に降りる)ようにしましょう。 人の気配や音に不慣れなまま過ごすと、音に過敏で吠えやすい犬に育ってしまう危険があります。また、共働きなどで夜のお散歩が多くなりそうな家庭では、少しの時間でよいので日中の外出を心がけましょう。
犬はもともと目がよくない動物である上、昼と夜とでは景色の見え方が違うので、早い段階から周囲の環境に慣らしていくようにしましょう。これらの行動の多くは、恐怖心や不安感が犬の心に残らないようにするのが目的です。社会化に熱心に取り組むあまり、犬が嫌がっているのに強要するのは逆効果です。表情や行動をよく観察しながら自然に経験を積み重ねていくことが大切です。
犬種や犬個々によって差はありますが、だいたい1歳前後で性成熟を迎え成犬期に入ります。成犬期以降も環境や年齢に応じて社会への適応トレーニングは継続して必要ですが、1歳前後までの社会化は、犬が生涯にわたり人間と一緒に生きて行くためには非常に重要なことです。 社会化期、若年期の犬はとても可愛く、つい甘やかしたり、そのときの感情に流されたりして、犬の社会化を忘れがちになりますが、犬の幸せのために高い意識と責任感をもって社会化に取り組みましょう。