交通事故や犬同士のケンカ、火傷、ソファや高い所からの落下などの危険が、日々の生活の中には潜んでいます。事故が起こる状況はざまざまですが、どんな場合においても、飼い主さんが落ち着いて行動することが何より重要です。事故が起こったときは冷静に状況を見極め、すみやかに適切な対処をすることが大切です。
事故の対処において重要なのは、ケガなどを見た目で判断しないこと。飼い主さんとしては、愛犬がケガをしていたらすぐにでも手当をしてあげたいと思うでしょうが、見た目だけではわからない深刻な状態となっている場合もあります。焦って間違った処置をしないよう、日頃から応急処置の知識を得ておくよう心がけ、判断できない場合はまず獣医さんの指示を仰ぎましょう。
緊急時の応急処置の前提として、最低でも飼い主さんご自身で歯みがきや全身のグルーミングができる犬にしておく必要があります。普段から体や口の中を触らせてくれなければ、ケガをしてパニック状態のときに傷口を触らせてくれるはずがありません。こういった日頃のスキンシップやしつけが、いざというとき愛犬を救うことになるのです。
愛犬がケガをした場合、すぐに動物病院に連れて行って治療をしてもらうことが基本ですが、ケガの内容によっては、その場で応急処置できるものがあります。ここでは、飼い主さんでもできる応急処置を中心に紹介します。 あくまでも治療までの処置ですが、覚えておけば必ず役に立ちます。
爪を切っていたら、つい深く切ってしまい出血してしまった、というケースはよくあります。犬の爪には血管と神経が通っていて、爪が黒い犬だと血管が見えにくく、切りすぎてしまう場合もしばしば。また、足をぶつけたり踏まれたりして爪が割れ、出血することもあります。
軽傷の場合
ガーゼ等を用いながら指先で軽く圧迫止血をします。傷口が泥で汚れている場合は水道水で洗い流します。市販の止血剤を使ってもよいでしょう。だいたい5分程度で出血は止まりますが、血が止まらなかったり出血量が多い場合は動物病院へ連れて行きましょう。
重症の場合
出血量が多いとき、爪の損傷が激しいときは止血で応急処置をして動物病院に連絡し指示を仰ぎましょう。
自宅でトリミングをする場合、愛犬の足先などを誤ってハサミで傷つけてしまったというケースも起こりがち。また、台所などでガラスを割ってしまい、その破片で愛犬がケガをするといったことも考えられます。
小さな傷の場合、可能であれば傷の周囲1~2cm程度の範囲の被毛をハサミやバリカンで刈り取って傷口を露出させます。その後、傷にはりつきにくいガーゼなどで軽く押さえて止血し、ワセリンや抗生物質の入った軟膏を塗っておきます。傷口が汚れている場合は水道水などで洗い流しましょう。
傷が深くて出血量が多い場合や、ガラス片などが深いところまで刺さっている場合は、無理に抜いたりせずに動物病院で治療してもらいましょう。
室内飼育の場合、料理をしているときに足元にいた愛犬にお湯がかかって火傷をした、といったケースが考えられます。人間とは異なり、犬の場合は背中等の体幹部にヤケドを負うことが多いというのが特徴。また、冬場はこたつやファンヒーターなどで低温火傷を起こすこともあるので要注意です。
犬がおとなしくしていられそうならば、傷口をすぐに流水で冷やします。冷やすことで火傷の深さが進行するのを食い止めることができると同時に、鎮痛効果も期待できます。冷やす時間の目安は3~5分、その後、傷口の周囲の被毛を刈り、ワセリンなどを塗って傷が乾かないようにします。火傷の場合はケガとは異なり、時間が経つに連れて皮膚の壊死が進行することもあるので、軽症だと見えても、一度動物病院で診てもらうことをおすすめします。
火傷の範囲が広範囲に渡っていたり、化学薬品等で火傷をしたりした場合は、すぐに動物病院へ連れて行きましょう。化学薬品による火傷の場合、何の薬品による火傷か、きちんと獣医師に伝えることが大切です。また、低温火傷の場合、一見傷が小さくても皮膚の奥のほうまで火傷をしている可能性があるので注意が必要です。
室内飼育の場合、とくに仔犬の時期に起こりやすいが、電気コードにいたずら咬みをして感電する事故。人間への二次被害や漏電による火災などもあり得るので、十分な注意が必要です。
軽くバチッと感電しただけで済んだ場合には、口元や歯茎、口の中などに火傷をしていないか確認します。傷がひどい場合には一度獣医師に診てもらいましょう。
感電して動けなくなっている場合には、まずブレーカーを落としたり、コンセントを抜くなどして流れている電気を止めます。そのうえで呼吸や意識があるかどうかを確認し、必要に応じて人工呼吸や心臓マッサージを行います。その後はできるだけ早く動物病院へ連れて行くようにしましょう。
異物を飲み込む事故はよく起こります。散歩中に落ちている物を食べてしまったり、テーブルの上の物やおもちゃなどを飲み込んでしまったりと、室内外のさまざまな状況で発生します。飲み込んだ物が害のないもので、体内のどこにも引っかからずに排出されれば問題ないのですが、飲み込んだ物の形状や性質によってはすぐに処置を施さなければならない場合もあります。
飲み込んだ物の一部が口から出ている場合
ヒモ状の物などを飲み込んで、一部が口から出ているような場合、飲み込んでいる部分がどこまで入っているかがわからないので無理にひっぱってはいけません。軽く引いてみて抵抗なく出てくるようなら取り除いても問題はありませんが、もし引っかかるようなら、食道や胃壁を傷つける恐れがあるので、動物病院で処置してもらうようにしましょう。
すでに飲み込んでしまった場合
とにかく動物病院で診てもらうことが先決です。何を飲み込んだのかがわかっている場合は、正確に獣医師に伝えます。薬品や洗剤、殺鼠剤などを飲み込んだ場合は、成分等の情報も必要です。 誤飲した物が小さい場合(焼き鳥の串など)は内視鏡を使ってつまみ出す処置がなされますが、内視鏡設備のない動物病院では開腹手術で取り除く場合がほとんどです。誤飲の事故はとても多いので、起こるものと考えて対応を準備しておいたほうがよいかもしれません。かかりつけの動物病院に、もし誤飲したらどのような処置がとられるかを確認しておき、内視鏡設備のある病院に関する情報も得ておきましょう。
小型犬の場合、飼い主が愛犬を抱き上げようとして床に落としてしまったり、気づかずに足や尾を踏んで骨折をするケース、足を持った拍子に脱臼するケースなどが考えられます。落下や事故でのケガの場合は、患部が一カ所とは限らないので注意が必要です。
軽症の場合
落下や事故の直後は痛がっても、すぐに患部を触らせるようであれば少し様子を見てください。痛みが引かないようであれば、動物病院に連れていきましょう。
足がブラブラしてまったく力が入らないようであれば、骨折の可能性が大。激しく痛がる様子が見られたり自力で動けない場合は、すぐに動物病院へ連れて行き診断を受けましょう。運ぶときにはなるべく患部に触らないよう、全身を柔らかい布で包むなどしてそっと運ぶようにしましょう。もし暴れたりする場合には、エリザベスカラーなどをつけておくと安心です。 骨折の手術は、専門の器具や技術が必要とされており、すべての動物病院で実施できるわけではありません。日頃から骨折した場合にはどうするかを想定し、かかりつけの先生と相談しておきましょう。良心的な動物病院であれば、整形外科の専門医を教えてくれるはずです。
夏場の暑い時期にアスファルトの上を歩いてパッド部分を火傷したり、室内飼育の犬が急に外で激しい運動をすることで、パッド部分の皮がめくれてしまうといったケースが考えられます。
傷口が汚れている場合には水で洗い流し、ワセリンや軟膏を塗ったうえで、傷口が乾かないようラップを軽く巻きつけます。その上から犬用の靴や靴下を履かせて傷を保護しましょう。
傷の範囲が広い場合や傷口が深い場合、また、トゲ等の異物が刺さっている場合には、無理に処置しようとせず、すぐに動物病院へ連れて行きましょう。
夏場に限らず高温多湿の環境であれば、屋内、屋外に関係なく熱中症になります。熱中症は、軽度に見えても急激に症状が悪化する場合があるので注意が必要です。呼吸の様子などがおかしいと感じたら、すぐに涼しい場所へ退避させるなどの対策をとるようにしましょう。
呼吸が荒くなったり、普段と様子が違うと感じたら、風通しのよい涼しい場所へ移動させ、濡れタオルなどをかけて体温を下げます。首筋、ワキ、後ろ足の間など、太い血管が通っているところにペットボトルなどを当てて冷やすことも有効です。ただ、体温を下げるのは重要なことですが、そのために氷や氷水を使うのは絶対にNG。体の表面の温度は下がりますが、血管が収縮することで体に熱がこもってしまい逆効果です。 水を飲めるようであれば水分補給もさせましょう。様子を見て症状が改善しないようなら、すぐに動物病院へ連れて行きましょう。
呼吸をする際に舌根まで出ている、舌の色が赤く変わっている、よだれが大量に出ているなど、明らかに様子がおかしいと感じたら、急いで動物病院へ連れて行きましょう。
散歩中に出会った犬に咬みつかれたり、ドッグランなどで遊ばせているときにいきなり襲われるといった事故を避けるのは難しいものです。犬による咬み傷の場合、傷口が化膿したり感染症にかかるおそれもあるので、必ず動物病院へ連れて行きましょう。
犬歯による傷の場合、傷口自体は小さいことが多いので、時間が経つとその場所がわかりにくくなってしまいます。傷口をマーキングする意味でも周りの被毛を刈って傷を露出させておき、シリンジを使ってワセリンや軟膏を注入して傷を乾燥させないようにしましょう。犬同士のケンカでできた傷の場合は感染症にかかるおそれもあります。軽症でも動物病院で一度診てもらうようにしましょう。
大量に失血していたり意識がない場合には、すぐに動物病院で処置をしてもらう必要があります。その際、なるべく愛犬にショックを与えないよう、慎重に運ぶようにしてください。
愛犬が交通事故などに遭った場合、まず飼い主さんがしなけらばならないことは、冷静に状況を見極めることです。目の前で愛犬が事故に遭えば、どんな飼い主さんでもパニックに陥ると思います。しかし、愛犬の命を救えるのは飼い主さんだけなのです。あわてて現場に近づいて、飼い主さんまで事故に遭ってはどうしようもありません。まずは自分が冷静でいることを心がけ、周囲の安全を確かめたうえで愛犬に近づき、次に何をすべきかを考えましょう。
愛犬に近づいたら、まず呼吸の状態、意識の有無、出血の有無などを確認します。そのうえで動物病院に連絡を入れ、事故の状況や犬の様子、病院に連れて行くまでにかかる時間などを伝え、受け入れ体制を整えてもらいましょう。
交通事故の場合、たとえ事故直後に目立った傷がなく元気そうに見えても、脳や内蔵に損傷があって状態が急変することも考えられます。ケガをしていないようでも絶対に素人判断はせず、一度動物病院で診察してもらうようにしてください。動物病院に連れていく際は、なるべく愛犬の体に負担がかからないよう、安静に運ぶことが大切です。毛布や犬用のベッドなどの柔らかい物に寝かせて静かに運ぶようにしましょう。
また、その後のトラブルを防ぐためにも、現場を離れる前に事故の相手の連絡先を忘れずに確認しておきましょう。
自力で動けない犬の運び方
小型・中型犬の場合 毛布や犬用のベッドなどの上に寝かせ、できるだけ静かに運びます。 大型犬の場合 家族や周囲の人に手伝ってもらい、バスタオルなどの上に寝かせ、布の両端をもって担架のようにして運びます。
心臓マッサージ
心臓マッサージをする場合は、犬をヨコに寝かせた状態で、前足のつけ根のやや後ろ辺りの肋骨部分を1分間に80~100回程度のペースで押してマッサージを行います。このとき、押すことに夢中になって、つい手を離すのを忘れてしまいがちですが「押して離す」の動作ではじめて心臓に血液を送ることができるので、押す→離す→押す、という動作を忘れないようにしましょう。また、小型犬の場合はあまり力を入れ過ぎてもいけません。片手でやや強めに押す程度の力で行ってください。